岸田 花子(きしだ・はなこ) 民放労連委員長/フジテレビ労働組合執行委員/フジテレビLIVE STUDIO 業務推進部長 1995年フジテレビ入社。カメラ、マスター、スタジオデスク、計画部、システムなどを経て現職。主に技術職を歴任し、放送や番組作り、業務の仕組みに関わることが多かった。現在は、報道局・情報局・スポーツ局といったフジテレビの生放送を支える部署の編集設備やCG設備やそこで働く人、費用の管理を行うLIVE STUDIO 業務推進部の部長。2009年から、フジテレビ労組執行委員、民放労連女性協議会常任委員を務め、フジテレビ労組委員長、書記長、民放労連女性協議長などを経て、2022年から民放労連委員長を担当。
藤田 結子(ふじた・ゆいこ) 東京大学大学院情報学環 准教授/MeDiメンバー コロンビア大学で修士号(社会学)、ロンドン大学で博士号(コミュニケーション)を取得。明治大学等を経て2023年より東京大学大学院情報学環准教授。著書に『文化移民ー越境する日本の若者とメディア』(新曜社、2008)、Cultural Migrants from Japan (Rowman & Littlefield, 2009)、『働く母親と階層化』(共著、勁草書房、2022)他。
板津 木綿子(いたつ・ゆうこ) 東京大学大学院情報学環 教授/B’AI Global Forumのディレクター デジタルメディア技術と社会の接点、日常生活の営みにおけるメディア、レジャーと権力との関係について文化史社会史観点から研究。とりわけ社会的マイノリティの包摂、メディアの人種・エスニシティ表象など文化政治が研究テーマ。余暇活動の中で使われる人工知能の活用によって起こりうる排除や差別、そして同技術により可能となる包摂についても関心を持っている。フルブライト奨学生として米国南カリフォルニア大学に留学し、歴史学の博士号取得。2022年夏よりWomen in AI Asia Pacific Chapter Advisory Boardに就任。
2023年3月1日、「メディア表現とダイバーシティを抜本的に検討する会(MeDi)」のメンバーによる2冊目の書籍『いいね! ボタンを押す前に——ジェンダーから見るネット空間とメディア』(亜紀書房、2023年1月刊行)の刊行記念イベント第1弾が神保町の会場とオンライン同時配信のハイブリッドで開催された。MeDiと亜紀書房の主催、東京大学B’AI Global Forum共催で開催された本イベントでは、著者8人のうち、序章と特別対談を担当したエッセイストの小島慶子氏、第3章「なぜSNSでは冷静に対話できないのか」を執筆した東京大学大学院情報学環教授の田中東子氏、第4章「なぜジェンダーでは間違いが起きやすいのか」を共同執筆したジャーナリストで東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授の治部れんげ氏の3人が登壇し、「わたしたちの知らないインフルエンサー」というテーマで自身のメディア経験を交え議論を行った。
続いては、元朝日新聞記者で30年近く性暴力取材に携わってきた河原理子氏より、取材する側として感じる課題や取材にあたって最低限知っておくべきことについて話していただいた。河原氏はまず、朝日新聞の過去記事で「性暴力/性的暴力」というキーワードが出現する記事件数の推移データ(1985年~2021年)を提示し、マスメディアによる性暴力報道の量的変化に言及した。データによると、1980年代には皆無に等しかった記事数が90年以降右肩上がりで増加し、ピークに達した2020年には300件を上回っている。河原氏は、この一つの要因として性暴力問題に関心を持つ女性記者の増加を挙げ、女性と男性の違いは被害経験が身近であるかどうかという経験値の圧倒的な差であると述べた。ただ、佐藤氏の話にもあったように、女性だからといって必ずしも正しい理解があるとは言えず、性別にかかわらず取材に関わる全ての記者は性暴力報道特有のスキルと知識を身につけなければならないと指摘した。また、性暴力報道には、取材そのものの難しさや事実確認の難しさがつきまとうだけでなく、社会や報道機関内部にも根強く存在する無理解や偏見に働きかけながら、「日常化された異常性」を明らかにして意識を変えていく姿勢が求められることも指摘した。 それでは、性暴力取材にあたって必要な知識にはどういうものがあるのか。河原氏は、事前に配布していた2つの資料、「性暴力被害取材のためのガイドブック」(性暴力と報道対話の会、2016)と「Reporting on Sexual Violence」(Dart Center Europe、2011)を参照しながら、性暴力取材で最低限知っておくべきこととして4点を挙げた。①基本ルールが異なる(企業や役所、有名人などを相手とする通常の取材とは違う態度が必要)、②トラウマ反応について知る(特に、被害者の自責感など)、③経験者の思いや反応は一人ひとり違うことを理解する(ステレオタイプな「被害者らしさ」を当てはめない)、④取材する人自身もダメージを受けることがあるので、セルフケアの必要性を知り予め備える。
ーーー 1 https://theconversation.com/five-ways-the-media-hurts-female-politicians-and-how-journalists-everywhere-can-do-better-70771 2 Carlin, D.B. and K. L. Winfrey. 2009. “Have you come a long way baby? Hillary Clinton, Sarah Palin, and sexism in the 2008 campaign coverage.” Communication Studies 60: 326-343.