第4回メディアと表現について考えるシンポジウム「それ“実態”とあってます? メディアの中のLGBT」

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2018年12月2日、「第4回メディアと表現について考えるシンポジウム『それ“実態”とあってます? メディアの中のLGBT』」が、東京大学福武ホール地下2F 福武ラーニングシアターにて開催された。

登壇者は、隠岐さや香氏(名古屋大学)、藤沢美由紀氏(毎日新聞)、ブルボンヌ氏(女装パフォーマー、エッセイスト)、増原裕子(トロワ・クルール)。司会は小島慶子氏(エッセイスト、東京大学)が務め、LGBTに関するメディア表現について、当事者を交えて議論された。

LGBTに関するメディア表現と当事者たちの反応

 近年、LGBTにまつわるイシューやコンテンツに注目が集まっている。LGBT当事者たちは、これらをどのように受け止めているのだろうか。

2018年、男性同士の年の差恋愛をモチーフにした深夜ドラマ「おっさんずラブ」(テレビ朝日系)が大ヒットした。男性同性愛者で女装パフォーマー、エッセイストのブルボンヌ氏は、同作がゲイ当事者の間で広く支持されたと述べる。若くて美しい男性で構成されがちなボーイズラブと異なり、年齢、容姿ともに多様な男性が登場したことが要因だ。

女性同性愛者でLGBTアクティビストの増原裕子氏は、同性愛と異性愛がほぼフラットに描かれていた点で同作を評価した。「同性愛」「ゲイ」といった表現がほとんどなく、登場人物が無理矢理カミングアウトさせられたり偏見に苦しんだりといったシーンも少なかったため、LGBT当事者を含む視聴者に広く受け入れられたと考えられる。

 一方で、女性同士のラブロマンスを描いた映画「CAROL」(2014年/イギリス)のように、女性同性愛に関するコンテンツに登場するのは若く美しい女性ばかりになりやすい。女性同性愛はポルノのいちジャンルとして長く男性に消費されてはきたが、「おばさんずラブ」のような形でヒットすることは難しいだろうと増原氏。ブルボンヌ氏は、アイドルファンの例を挙げ、コンテンツ消費においても女性より男性のほうが若く美しい異性を追い求める傾向にあるためではないかと推察した。

 他方で、2018年にLGBT当事者たちに大きな波紋を呼んだのが、「新潮45」(2018年8月号)での自民党の杉田水脈衆院議員の発言だ。杉田議員は「LGBTは子どもを産まない、生産性がない」などとして炎上し、最終的に同誌は休刊に追い込まれた。

 ブルボンヌ氏によれば、杉田議員の発言はLGBT当事者の多様性、そして分断を可視化した。同じLGBT当事者といっても、個々に抱えるトラウマや直面する困難、問題意識は異なるため、十把一絡げにはできない。当事者およびその周囲の人々でも、同発言に対する見解がわかれたのみならず、SNS上では極端な反論や共感も目立ったという。

杉田議員の発言は、LGBT非当事者のあいだでも賛否両論を巻き起こした。これまでネット空間におけるLGBTの話題は、ボーイズラブや萌えの文脈から比較的好意的に受容されてきた。しかし、2017年9月に男性同性愛者を思わせるキャラクターが差別的だと物議を醸したバラエティ番組「とんねるずのみなさんのおかげでした」(フジテレビ系)をめぐり、抗議文に応じる形でフジテレビ側が謝罪した頃から風向きが変わり、ネット上にバックラッシュが起きつつある。

 思想史を研究する名古屋大学の隠岐氏は、極端な意見は国を超えて連帯しやすいこと、TwitterなどSNSは極端な意見が目立ちやすくマジョリティーの意見が見えにくくなることを挙げ、そうした背景にも気遣いたいことに言及した。

メディアの取材を受け、傷つけられるLGBT当事者たち

 コンテンツのヒットや炎上事件だけでなく、自治体による同性パートナーシップ制度や企業によるLGBT社員への福利厚生など制度の整備という面でも社会が変容し、LGBTに関する報道の数もまた増加している。メディアがLGBTについて取り上げる際の問題点とは、何なのだろうか。

2014年からLGBT関連の取材を続ける毎日新聞記者の藤沢美由紀氏は、記事の執筆だけでなく、2015年からは社内勉強会の開催や用語集の作成に取り組んできた。しかし、自社を含めて新聞の表現にさえいまだLBGTの不理解を感じること、被取材者から記者の問題ある言動を見聞きしたこと、用語の誤用がなくならないことを問題視し、2018年4月には、新聞やテレビ、ウェブメディアで取材を受けたLGBT当事者70人を対象にアンケートを実施した。

 同アンケートでは、約9割がメディアによる取材はLGBTに関する知識の周知や当事者同士の連携につながったとする一方で、同様に約9割が不快な経験をしていることがわかった。

「過去5年以内に取材を受けて経験したこと」で最も多かったのは「記者が勉強不足だと感じた」(66%)で、性的指向と性自認を混同したり、差別的な発言や用語の誤用があったりという具体例が挙げられた。LGBTに関する勉強不足は被取材者自身のアイデンティティーを否定するため、人権の観点からも問題視される。また、性自認と異なる性別として物事を対処されるなどセクシュアリティーを尊重されないケース、許可していない情報の公開、撮影不可エリアの撮影など、アウティングにつながるようなプライバシーの侵害があったケースも少なくなかった。

 「過去5年ほどで目にした報道で違和感を抱いたもの」として挙がったのは、「誤った用語の使い方や説明」(77%)、「先入観のある描き方」(73%)、「差別的な言葉づかいや表現」(36%)など。その他では、「同性婚への反対など当事者のネガティブな意見を同じ分量で取り上げないでほしい」という意見も無視できないだろう。ことに新聞媒体は中立の立場を表明するために両論併記をしがちだが、藤沢氏は差別を受けている少数派の人々の人権を守るためには、それが必要ない場面もあるのではと問題提起した。

 現在、「LGBT」は性的少数者を包括的に示す単語として使用されがちだ。しかしLGBTという単語は、キャッチーな響きでその認知度向上に貢献した一方、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとったものであり、その他の性的少数者を排除しかねない。そのため、「Q(Queer=性的少数者)」「I(Intersex=性分化疾患)」を併記した「LGBTQ」「LGBTI」などが使用されることもある。

 近年は、「SOGI(Sexual Orientation Gender Identity=性的志向と性自認)」をベースとした考え方も広まりつつある。これは、性的少数者をマイノリティーとしてくくるのではなく、性的多数者を含むすべての人がそれぞれにSOGIをもつというもの。性的少数者も性的多数者と地続きであるという意識が、少しずつ広まってきているのだ。

 個人やメディアの発信とは別の難しさがあるのが、法律など制度を作る際の言葉選びだ。隠岐氏は、公式文書を作成する際、当事者団体等には認識されているが、公的な組織および法律において合意された定義のない言葉の使用が難しいことを指摘。自身が所属する日本学術会議「LGBTIの権利保障分科会」では、やむをえず「Q」ではなく「I」を加えているとする。「I」は国際連合の公式文書での使用例があるが、「Q」にはそれがない。

 呼称となる言葉には、正確性が求められる。一方で、性的少数者をめぐってはさらなる認知の拡大が必要であり、不正確でもキャッチーな言葉を選択したほうがよい場面もあるだろう。

 例えば、2018年11月に公開されたソーシャルゲーム「美少女戦士セーラームーンCrystal×モンスターストライク」のCMでは、セーラー戦士に扮したタレントのりゅうちぇる、メイプル超合金のカズレーサーと安藤なつ、モデルの多屋来夢が登場し、「楽しいことも、ジェンダーフリーに」というメッセージが流れる。ジェンダーフリーとは、性別役割にとらわれないこと。3人のうちカズレーサーは、バイセクシュアルを公言してはいるものの、ジェンダー役割にとらわれずファッションを楽しむほかの3人とはキャラクターが異なる。だが、そうした“なんとなく”な言葉のチョイスが、LGBT当事者を含め意外と好意的に受け止められているのも事実なのだ。

受け手の肯定的な反応がメディア表現の正義を決める

 質疑応答では、ネット空間でのメディアと受け手の対話について議論が深められた。媒体の両論併記に関する質疑を受け、隠岐氏はいまメディアに求められているのは個々の人権に関する考え方の表明だと指摘。LGBTに関して報じる際、メディアはむしろ積極的にポジションを取っていくべきとした。また受け手側も、人権を尊重する報道、コンテンツに対して積極的に肯定的な意見を出していくべきであり、それこそが極論の目立ちやすいネット空間を健やかに保つ鍵になる。LGBT非当事者はできることはないと勘違いしがちだが、身構えず、好ましい人権観を広めていくことが平等につながると結論づけられた。