選挙報道に関するメディアへの提言

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<衆議院選挙報道の課題>

 2021年10月に行われた衆議院選挙は、先に(2021年9月)行われた自民党総裁選に初めて女性議員が複数立候補したことで、男女比が5:5となり、今まで総裁選の論点になりにくかった選択的夫婦別姓や同性婚、LGBT理解促進法案などジェンダー関連の政策が注目された。さらに、「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が施行されて初めての衆議院選挙でもあったことから、各メディアは政党や候補者へのアンケートで選択的夫婦別姓や同性婚などについて質問を設けたり、女性候補者の割合を報じたりしたが、女性議員の割合は9.7%と前回を下回る結果となった。

 「メディア表現とダイバーシティを抜本的に検討する会(MeDi)」では、研究者と選挙報道に携わった各社の記者が、今回の選挙報道についてジェンダーの観点から検討する機会を持った。記者からは「公平・中立」という原則の中で、女性議員やジェンダーなど個別の問題を報じるのは時間的な制約もあり掘り下げて報じるのが難しいという意見が出た。また、選挙報道は政治部が中心になって行うため、ジェンダーなど報道に多様性が反映しにくいといった組織の縦割りの問題も課題として挙げられた。これらの意見を通じて、政治部以外の記者が新たな視点から選挙報道の記事を書くことに障害があることがわかった。さらに、現状の選挙報道は、投票日当日の開票速報、当選確実をいかに速く伝えるか、何議席獲得したかといった勢力図に重心が置かれており、投票前に有権者が知りたい情報を本当に伝えているのか、といった問題も指摘された。一方でデジタルでは、他社と連携して若者や女性などターゲットを絞った記事やデータに基づく分析記事が発信されるなど、これまでの画一的な選挙報道とは異なる可能性を感じる取り組みも紹介された。

<提言>

●公示日スタートの選挙報道だけでなく年間を通じての報道を
選挙期間中だけでは伝えられる内容が限られるため普段の報道で女性議員が少ないことや政治や選挙がどう生活に関わってくるかなど、年間を通じて報道することが必要。
次の参院選に向けては特に「候補者男女均等法」を受けて、各政党がどう候補者の男女均等を実現するのか、候補者が決まる前に取材し報道を。

●政治部中心の選挙報道から他部との連携で多様性のある報道を
有権者の関心は多様になっており縦割りの組織、政治部だけでは、多様性を反映することは難しい。争点の設定、政党・候補者アンケート、そして報道についても、「政治は生活」の観点から他部と連携することが必要。新聞テレビを見ない世代が増えていることから、SNS、ネットメディアなどデジタル発信を強化し、有権者に届く報道を。

●報道する側のジェンダー平等を
多様性のある報道のためには報道する側(意思決定層にも)のジェンダー平等が不可欠。また、政治部以外の記者が政治について違う視点での記事を書くことも多様性を担保する。

●エビデンスのあるデータ分析など多角的な視点を
単に世論調査の結果や各党・候補者のアンケート結果を紹介するだけでなく、そのデータが意味することを専門家も交えて分析し伝える。例えば、投票行動の属性別の詳細な分析、SNS言論の分析、選出された議員の属性の隔たり(世襲議員の当選確率など)など、データを分析し、エビデンスを持って伝えることも、選挙報道として重要。また、選挙を「点」としてではなく、歴史的な流れや意味、世界的な動きについても紹介するなど、多角的な報道を。

●公職選挙法、および選挙制度の仕組みへの問題提起を
女性の政治家が増えない背景には「公認候補」を中心とする現職重視の伝統、さらには世界にも稀にみる短期間の「公示期間」による現職有利な仕組みなど、選挙制度そのものに起因することも多い。公職選挙法の問題点はかねてから指摘されてきたものの、ジェンダーとの関連で論じられてきたことは少なく、候補者クオータ制も含めて、普段からの問題提起や議論が必要であろう。

オリンピック報道に関するメディアへの提言

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<東京オリンピック・パラリンピックでのジェンダー表現をめぐる課題>

 今回の大会は、2021年2月の組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言をはじめ、開会式関係者による女性タレントの容姿蔑視、障害者へのいじめ、ホロコーストをコントにしていたことが明らかとなるなど、日本のジェンダー・人権意識の課題が「見える化」する機会となった。国際オリンピック委員会は『スポーツにおけるジェンダー平等、公平でインクルーシブな描写のための表象ガイドライン』を発表し、メディアに「ジェンダー平等で公正な描写」を求めた。また、今回の大会は、LGBTQを公表している選手の数が過去最多となり、トランスジェンダーの選手が生まれたときに割り当てられた性別とは別のカテゴリーで初めて参加した大会となったことから、『LGBTQ+ アスリートのメディアガイドライン』もまとめられた。

 MeDi(メディア表現とダイバーシティを抜本的に検討する会)では、研究者と報道に携わった実務者が集まり、今回の大会の報道について、ジェンダーの視点から検討する機会を持った。女性選手に対する「美しすぎる」「ママアスリート」といった外見や私生活に焦点が当てられたものや、テレビ番組で女子ボクシング選手に対して「女でも殴り合い、好きな人いるんだね」など、ジェンダーステレオタイプ(固定概念)からの発言もあった。

 その背景として、報道する側の体制が指摘された。スタジオ出演者のキャスターやゲストは女性が増えたが、実況はほとんど男性アナウンサーで、取材を担当するスポーツ担当の記者も男性が多い。また、そもそもオリンピックをどう伝えるかの意思決定層がほぼ男性、という伝える側の不均衡なジェンダーバランスは大きな課題といえる。

 また、オリンピックの歴史や開催の意義など、報道する人たちがオリンピック憲章を学んでおらず、国・地域ごとのメダルの数のランキングや、日本人が金メダルを取ったことだけを報道するなど、報道の在り方についても今後の報道に向け検証・議論が必要と考えられる。
以下、検討した内容から提言したい。

<提言>

● 報道に携わるメディア関係者はオリンピックの歴史や憲章、以下のガイドラインなどを学ぶ機会、研修を
「スポーツにおけるジェンダー平等、公平でインクルーシブな描写のための表象ガイドライン」「LGBTQ+ アスリートのメディアガイドライン」

● 報道・制作チームなど伝える側のリーダー、メンバーにジェンダー平等を 

● 多様な報道ができるよう、スポーツ部だけでなく他部と連携した発信を

● 今回の大会について「ジェンダー平等」の観点から検証を
報じた内容について、記事、写真、映像、取り上げられ方、表現など、コンテンツ全体がジェンダー平等の理念を踏まえた内容となっているか

● 大会後にジェンダーバランスについて検証できる仕組みづくりを